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Setouchi International Art Festival(瀬戸内国際芸術祭)

「ね、デニス、知ってる?今年の夏に四国で芸術祭が行われるんだって。俺、ずっと行きたかったんだけど、なかなか予定が合わなくて行けないんだ。デニスが代わりに行ってくれよ。」とある日、友達に言われた。

私は正直美術館に何時間も滞在しても飽きないような人でもなく、ひとつの美術作品をじっと見て楽しめるような人でもない。そもそも芸術というのは何かをうまく説明できるような人でもない。そんな私は当時、さほど興味を示さなかった。「あ、どんな芸術祭なの?」と、とりあえず相槌を打ってみた。

「なんか、四国の島々にいろいろな展示があって、船で島々を回りながら芸術祭に参加できるんだって。それぞれの島に一泊ずつ泊まったりして一週間ぐらいかけて全部回れるらしいよ。」

私は芸術や美術というものを知らないのかもしれない。しかし、私はどちらかというと、想像力に富んだ人なのかもしれない。何か少し変わったものを目の前にして、私は想像力を自由に走らせ、自分の世界に飛び込み、仮定の世界で泳ぎまわって遊ぶのが好きだ。美術を楽しむのと多少似ているところはあると思うが、一か所にずっと閉じ込められてある作品を観るという、限られた空間では、私の想像力も大きく妨げられる。前にも書いたように、私は移動するときに頭と想像力が一番働くかもしれない。自然という無限大の空間で、時間が過ぎるのと同時に、私の想像力もそれを追いつこうとせんばかりに、爆発するのだ。

友達の簡単な説明を聞いて、私はすぐその芸術祭に対して興味が湧いてきた。一か所に閉じ込められることなく芸術を楽しめるし、私の大好きな移動もたっぷり堪能できるし、私はこの芸術祭に参加しない理由がどこにも見当たらなかった。たとえ美術が抽象的すぎてわからなくても、四国に行くいいチャンスにもなるし、島めぐりも楽しそうだから、私は翌日早速瀬戸内国際芸術祭の詳細を調べてみた。

まだ大学生なので、やはり金欠という大きな壁を越えなければいけないので、私は夜行バスで四国に行くことにした。

香川名物:讃岐うどん!

高松名物:骨付き鶏!

ホームページによると、瀬戸内国際芸術祭は、「瀬戸内海の島々を舞台に開催する現代アートの祭典です。」3年ごとに行われる催しで、2010年に第一回が行われたので、次回は2013年に再び開催する予定だそうだ。瀬戸内海にある、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島といった島、それから高松港周辺を会場とし、18の国と地域から75組のアーティストとプロジェクトが参加する膨大なイベントなのである。

昔から活発だった瀬戸内海が今や、都市化による島々の過疎化と高齢化という問題が深刻になっていて、地域の活力が低下しつつあるのが現状である。その懐かしさと活力を取り戻そうと、瀬戸内国際芸術祭が開催されたということ。公式ホームページによると、ART SETOUCHIは、「民族、芸能、祭り、風土記という通時性」と「現代美術、建築、演劇という共時性」を交錯させ、瀬戸内海の魅力を世界に発信するプロジェクトだ。

瀬戸内国際芸術祭は7つの島もあって島々を回るのに船に乗らなければいけない。島での滞在時間や、船の時刻表などを考慮して、ちゃんと計画して行った方がいい。島の大きさによって、数時間から半日、一日までかかる場合もあるので、すべての島を回るのは数日滞在しなければいけない。瀬戸内国際芸術祭のガイドブックを買うのをお勧めする。中には、島や作品の紹介はもちろん、船の時刻表、注意事項、お勧めなルートやプランなども書いてあるので、船に乗っている間にガイドをぱらぱら捲れば、色々お得な情報が手に入る。

直島みたいな大きい島だと、駆け足で作品を観るのには5時間ぐらいかかるし、作品をゆっくり回りたいのであれば1日ぐらいかかるらしい。男木島みたいな小さい島だと、駆け足で見る場合は1時間半があれば十分だという。

ガイドブックの最後にはシールブックというのがある。7つの島の地図、それから「お気に入り」とか、「ご飯を食べた」とか、「海を眺めた」とか、「誰かを思った」とか、「夕陽を見た」とか、「キスした」とか、「泊まった」とか、色々なシールが入っている。自分の実際にしたことを記念にするために、シールをはがして地図で実際に行ったところにそのシールを貼るのだ。この芸術祭での思い出を日記に書かなくても、このガイドブックのシールブックを使えば、自分がどこで何をしたかが一目瞭然。

直島のベネッセハウス美術館のレストランの屋外テラス席で瀬戸内海の絶景を眺めながらスパーゲッティを啜る最高な気持ちは今でも忘れられない。目の前の景色を思わず写メて友達に送った。

「わー!すげぇ奇麗!!今すぐでもあそこに飛んでいきたい!」と友達から返事がきた。私もあそこで瞬時飛べる気がした。自然という大きな芸術作品はどれほど開放感と刺激を与えるものか、そのとき鳥肌が立つほど実感できた。

ここで瀬戸内国際芸術祭で特に印象に残った作品を紹介させていただきたいと思う。

男木島の魂(ジャウメ・プレンサ、スペイン)

「この島を訪れた人を暖かく迎え入れる、半透明の空間を創設。屋根には日本語やアラビア語、ヘブライ語、中国語などのさまざまな文字が並び、日中はその影が地面に映る。そして夜は空に向かって投射する光景が広がる。」瀬戸内国際芸術祭ガイドブックより。

言語に目がない私にとっては魅力のあるアトラクションなのである。その建物の中には普通の切符の売り場、売店と待合室だけど、いざ上を見上げてみると、世界の文字に覆われる気持ちになる。くるくる曲がるアラビア文字に、1個1個何かの絵を表している中国語の漢字などが空にかかっているように見える。英語のアルファベットの隣にアラビア語文字が並んでいる。色んな国が戦争に巻き込まれる現実とかけ離れ、ここではその国々の言語の文字が平和に共存しているのを見て、なんかほっとする。もしかしたら、ジャウメ・プレンサも世界平和を願おうと、この作品を作り上げたのかもしれない。この世界は色々な言語という違いに分かれているが、この建物の中から上を見上げれば、同じ青い空のしたにいることに気づく。我々はそれぞれ違う国語を持っている。自分のアイデンティティを大事にし、他人の言語を尊敬し、理解し合うことにより、この世界はきっとより平和なところになると信じている。

思い出玉が集まる家(川島猛とドリームフレンズ、日本・アメリカ)

「「思い出玉」とは、新聞や雑誌、チラシ、包装紙などによる球状のオブジェのこと。男木島の各家庭に眠っている捨てられない手紙や日記など思い出の詰まった紙を持ち寄って持って「思い出玉」を住民たちと制作し、住宅の玄関や門、廊下や壁など随所に展示を行う。また、鑑賞者も「思い出玉」が制作ができ、作品の一部として設置。」―瀬戸内国際芸術祭ガイドブックより

私たち人間はそれぞれ自分ならではの思い出を抱えていきている。そして、嬉しい思い出や、辛い思い出など、新しい思い出を作りながら人生を生きていく。また、我々という一人ひとりの人間を区別するのは、顔や体系などといった外見だけでなく、やはり考え方と性格も重要であろう。一人一人が持つ違う性格と考え方を作り上げたのは、恐らく人生での経験なのではなかろうか。変な例えかもしれないが、人間の見方を少し変えてみれば、私たちは自分の持っている思い出の塊だ。それを如実に表しているのがこの「思い出玉」という作品。

人生経験豊富なお年寄りは大きな玉で、若い人はまだ人生経験が浅いので思い出玉が小さい。その玉を覗いてみれば、なんでこの人はこうなっているのかが伺えるかもしれない。そう考えて、この作品を鑑賞すると、だんだん面白くなってきて「思い出玉」を一個一個じっくり見るようになって、気づいたらあそこで時間をかなり潰した。

音の風景 (松本秋則、日本)

「廃屋内に壺庭のような空間を和紙でつくり、島の竹林から採った竹を素材としたサウンド・オブジェを随所に設置。かつては馬小屋や民家だった独特の雰囲気の中で、素朴でどこか懐かしい竹の調べが奏でられる。」瀬戸内国際芸術祭より

このこぢんまりとした部屋に入ると、周りが静まり返る。唯一耳に入る音はたまにしか動かない竹のオブジェによる、チーンとした音。目を閉じて、耳を澄ませば、どこか不思議な空間に入った気がしてならない。まるで目隠しをさせられ、大自然に置かれたようだ。数分間いると、静寂をでも感じるようになる。何秒かごとにティーンとする音は鳥肌を立て、心まで響いてしまう。こんなところにいてこそ、今の都会の生活では自然の音が、車や機械の雑音に完全に封印されたことに気づく。

他のちょっと怖い芸術作品。